膝蓋骨軟化症

 

膝蓋軟骨軟化症とは「ランナー膝」ともいわれ、膝蓋骨(膝の皿)の裏側にある軟骨がすり減って柔らかくなってしまう病気のことです。運動をしている若い人に多い病気ですが、膝の関節炎を患っている大人にも起きることもあります。

ランニングなどをする人によくみられるスポーツ障害で、状態によっては何日間か練習をストップして膝を休めます。また、膝の皿のずれが原因になっていて、休んでも治らないケースもあります。膝の痛みと引っかかるような感覚がランナー膝の特徴ですが、こういう症状が起きても治療を受けずにいる人も多くいます。

膝の皿は通常、膝関節の前に位置していますが、膝を曲げると膝の皿の裏側と大腿骨とがこすれます。膝の皿と脛骨、膝の皿と大腿四頭筋は、腱と靱帯でつながっています。これらのうちのどれかの動きに異常があると膝の皿の裏側と大腿骨とがこすれてしまい、すり減って柔らかくなる、つまり膝蓋軟骨軟化症(ランナー膝)が起きるのです。

膝の皿の動きに異常をきたす原因は次のとおりです。

  • 膝の関節や骨の形の先天異常
  • ハムストリング(太ももの後側の筋肉)や大腿四頭筋(同前側の筋肉)の筋力不足
  • 外転筋と内転筋(太ももの外側と内側にある複数の筋肉)の筋力バランスの崩れ
  • 膝関節に繰り返しかかる負担(ランニングやスキー、ジャンプなど)
  • 膝の皿の強打や外傷

 

リスク

膝蓋軟骨軟化症(ランナー膝)の危険因子は次のとおりです。

年齢

10代から20代の人に起きやすいといわれています。成長期に入ると筋肉と骨が急速に発達するので、一時的に筋力のバランスが崩れることがあります。

性別

男性に比べて女性は筋肉の量が少ないので、ランナー膝が起きやすくなります。筋肉が少ないために膝の骨の位置がずれたり、膝の皿の外側にばかり体重がかかったりします。

扁平(へんぺい)足

足裏の土踏まずがある人に比べて、扁平足の人では膝関節に負担がかかりやすくなります。

昔のけが

今までに膝の皿にけがをしたことがあると(脱臼など)、ランナー膝が起きやすくなります。

運動量の多さ

普段からとても活発に動いていたり、膝関節に負担がかかるような運動を頻繁にしていたりしても、ランナー膝になりやすくなります。

関節炎

ランナー膝が、膝の関節と組織に炎症が起きる関節炎の症状ということもありえます。ここに炎症が起きると、膝の皿の動きに問題が生じます。

 

症状

膝蓋軟骨軟化症では通常、「膝蓋大腿関節の痛み」といわれる痛みが膝に現れます。膝を曲げたり伸ばしたりするときに引っかかる感じがしたり、パキッと音がしたりすることもあります。また、長時間座ったあとや、例えば長時間立つ、運動するといった膝に負担がかかることをしている最中に痛みが強まることもあります。

2、3日しても痛みが治まらないようなら、医師に相談してみましょう。

 

 

診断および分類

診断方法

膝の腫れている部分や押すと痛む部分を医師が診察して、膝の皿と大腿骨の並びも確認します。そのときにずれが見つかったら、膝蓋軟骨軟化症の印かもしれません。膝を伸ばした状態で膝の皿を押さえて、そのときに痛みがでるか、痛みの強さはどの程度かを調べます。

そのあと、医師が診断と重症度の判定基準にするために、次にあげる検査をすることもあります。

  • X線検査:骨の損傷や骨同士の位置ずれ、関節炎の有無を見る
  • 磁気共鳴画像診断 (MRI)検査:軟骨のすり減り具合と亀裂の有無を見る
  • 関節鏡検査:カメラが付いた関節用の内視鏡を膝関節に挿入する、体への負担が軽い検査

重症度

膝蓋軟骨軟化症の重症度はグレードIからIVの4つに分けられていて、IからIVに向かうほど重症度が高くなります。 関節鏡を使用することで診断できます。

 

  • グレードI(軽度):膝の軟骨が柔らかくなった状態。
  • グレードII(中等度):膝の軟骨が柔らかくなって、軟骨表面に異常がみられる状態。軟骨表面に異常があると、ほぼ間違いなく軟骨がすり減りだしている。
  • グレードIII(重度):軟骨がすり減って薄くなり、変形が進んでいる状態。
  • グレードIV(重篤):最も深刻な状態で、軟骨のすり減りがひどくなって膝の皿が露出している。膝の皿が露出するということは、大腿骨とこすれるようになる可能性があるということ。

 

治療

膝の皿と関節にかかる負担を軽減させることを、治療の目標にします。膝を休めて、固定して、冷やすことが第1の治療法です。軟骨を傷めてランナー膝になっていても、休めば回復することも少なくありません。

関節の炎症を抑えるために、医師から消炎鎮痛薬(イブプロフェンといった薬)を数週間分処方されることもあります。こうして治療しても腫れや(押したときの)痛みが治まらないようなら、次にあげる治療法を試すことになるでしょう。

 

 

理学療法

理学療法では、大腿四頭筋、ハムストリング、内転筋、外転筋の4か所の筋肉を鍛えて筋力のバランスをとることを目標にします。こうして筋力のバランスをとることで、膝の皿と大腿骨がずれるのを防ぎます。

水泳やエクササイズバイクのような膝に負担がかかりづらい運動に取り組むことを特に勧めています。関節を動かさず力を入れては抜く筋力トレーニングのアイソメトリック・エクササイズをすると、筋肉の量を維持できます。

 

 

手術

関節の状態を調べ、膝の皿と大腿骨とのずれの有無を見極めるために関節鏡検査が必要になることもあり、場合によってはそのまま手術(関節鏡視下手術)に進みます。この検査は、膝を少し切ったところからカメラが付いた関節鏡という器具を挿入して行うのですが、異常が見つかるとその場で治すこともあります。よく行われるのが、外側支帯解離術という手術です。この手術では、膝関節を支える靱帯の中で過度に緊張しているものを切って、動かしやすくします。

外側支帯解離術以外にも、膝の皿の裏にある軟骨の表面を滑らかに整える手術や、軟骨の移植手術、太ももの筋肉の停止部(骨に付いている部分で筋肉と一緒に動く)を他の場所に付け替える手術があります。

 

予防

次にあげる3点を守ると、「ランナー膝」になるリスクを軽減させることができます。

  • 膝の皿に何度も負担をかけないようにしてください。長い時間膝をつく姿勢をとる必要があるなら、膝当てを使いましょう。
  • 大腿四頭筋とハムストリングの間だけでなく内転筋と外転筋の間でも、筋肉を鍛えて筋力のバランスをとりましょう。
  • 扁平足なら土踏まずを上げる中敷を靴に入れてみてください。このようにすると膝にかかる負担が減るので、膝の皿が正常な位置に戻るかもしれません。

最後に重要なのが、太り過ぎていると膝に負担がかかるという点です。理想体重を維持することで、膝だけでなく他の関節の負担も軽くなります。体重を落とそうと決めたら、次の点を実践してみてください。

  • 週に3回、1回に30分以上運動する
  • 糖分と脂肪分を減らす
  • 野菜と果物、穀類をたっぷり摂る