膝前十字靭帯損傷

前十字靭帯(ACL)とは大腿骨(太ももの骨)の後方から脛骨(すねの骨)の前方をつなぐ靭帯で、大腿骨に対する脛骨の前方のゆるみと膝のひねりを制御する膝の安定性にとって重要な靭帯です

「前十字靭帯損傷」の画像検索結果

前十字靭帯損傷は、ストップ、ピボット、ジャンプの着地などで生じます。バスケット、バレーボール、サッカー、ラグビー、格闘技でよく起こります。損傷が強い場合、膝の側面の靭帯断裂を伴うこともあります。半月板の合併損傷がみられることもあります。

 

 

症状

  1. 損傷時
    ボキッという音とともに膝が壊れた感じがして、痛みやだるさのためスポーツ不能となります。膝をねじったとき、ジャンプして着地したときなどに膝がガクッと外れたような感じがしたとき起こることが多いです。また、ケガした瞬間に「ポキッ」などの音を伴うこともあります。その後、数分間は痛みのため動けないことがあり、時間とともに膝が腫れてきて膝の曲げ伸ばしができにくくなります。
  2. 急性期
    受傷直後には関節内に血液が貯留し、関節の腫れと痛みを伴い動きが悪くなりますが、約2~4週で回復し、通常の生活では足を引きずって歩くことなく日常生活でも困らないようになります。その後の経過は患者さんによって異なりますがスポーツをするような方は以下慢性期の症状がでます。
  3. 慢性期
    膝くずれが特にスポーツ時、ピボットやジャンプ時、ひざにねじりの負荷をかけたときに起こりやすくなります。膝くずれを繰り返しているうちに、半月板損傷を合併することがあり、ひざに水がたまりやすい、膝の引っかかり感や伸展不全(=ロッキング)を生じます。「膝がぐらぐらする」「膝が完全に伸びない、正座ができない」「スポーツ復帰して何度も膝がガクッとする」などと訴えられる患者さんが多いようです。

診断方法

 

徒手検査:ラックマンテスト
:膝を20°曲げて行う脛骨の前方引き出しテスト。前十字靭帯(ACL)が損傷しているとend pointがなく、「グニャ」とした感じがします。

 

MRI:靭帯や半月板の状態がわかります。

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前方引き出しテスト: 膝を90度屈曲してもらった状態で検者は下腿をを前方にひきます。下腿が健側と比べて多く引き出されます。陳旧性になると陽性になりやすくなります。

  

**半月板損傷は前十字靭帯(ACL)損傷に合併する例が多く特に長期に経過した人に多くみられます。半月板を切除すると将来的に変形性膝関節症になりやすいので極力温存します。(傷後長期経過したものや半月板損傷の部位によっては修復が期待できないこともあり、その場合は部分切除となります。

 

治療

膝くずれの防止が治療の最大目標ですが、損傷された前十字靭帯(ACL)は保存療法では修復されにくいので年齢や活動性、関節の不安定性などによって治療法を決めます。

膝前十字靱帯損傷の後、時に膝の曲げ伸ばしの回復が遅れたり、ももの筋肉(大腿四頭筋)がやせて力が入りにくくなる場合があります。このような状態が続いていると、正常に歩けず日常生活に支障をきたしてしまいます。適切なリハビリテーションを行えば、通常2~4週ほどで日常生活はもちろん、ジョギングなどの軽い運動は出来るようになります。

  1. 保存療法を選択する場合
    1. 前十字靭帯(ACL)の単独型損傷で日常生活レベルにおいて不安定感のないもの
    2. ジャンプや全力疾走を含むスポーツ活動に従事しないもの
    3. 高齢者
    例えば55才女性、走ったりすると膝の不安定感があるが、普段の生活ではさほど不自由を感じない。
    ⇒中年以降
    50才男性、以前からの膝の不安定感とともに半月板症状(疼痛など)が出現する。
    ⇒半月板の処置のみで再建術はせず
  2. 手術療法を選択する場合
    例えば22才男性、大学体育会でサッカーをしている。
    ⇒スポーツアクティビティの高い人
    17才女性、特にスポーツはしていないが今後レクリエーション程度の運動はしたい人
    ⇒若年者
    32才男性、前十字靭帯(ACL)損傷は指摘されていたが、今回膝をひねり膝が伸びきらなくなってしまった。
    ⇒半月板損傷あり、比較的若年者
  3. 相対的な手術の適応
    例えば40才女性、ママさんバレー選手、今後もバレーボールを続けたい。
    ⇒中高年で膝の拘縮(可動域制限)を生じやすく筋力の回復も遅れがちのためリハビリに積極的に協力していただけるならば手術をする。

 膝前十字靱帯(ひざぜんじゅうじじんたい:ACL)とは膝関節の中にある靱帯で、運動するときなどに膝を安定させる役目をしています。膝前十字靱帯損傷は、。しかし、スポーツ復帰したときに、再度膝がガクッと外れるようになります。膝前十字靱帯を損傷したままで運動や生活を続けていると、半月板や軟骨といった膝のクッションの役割をする正常な組織が傷ついてきます。膝前十字靱帯損傷からの時間が長ければ長いほど、膝が痛くなる、腫れる、引っかかるなどの症状が出やすくなります。

膝前十字靱帯損傷の主な症状

 

1.スポーツ整形外科の診察

専門のスポーツ整形外科医が診察します。ケガをしたときの状況を聞き、膝の診察(靱帯が切れているか、痛み、腫れ、熱感があるかなど)、MRIなどの所見、膝のゆるみの検査(ニーラックスという機械で検査します)などから総合的に診察し、診断します。その後、現在の膝の状態を説明し、本人のニードを交えながら治療方針を話し合います。その後、膝の可動域や筋力を回復させるために術前リハビリテーション(理学療法)の指示がでます。

2.術前リハビリテーション

整形外科を専門にしている理学療法士がリハビリテーションを担当します。当院で提供しているスポーツ・リハビリテーションの詳細はこちらでもご紹介しています。
            手術前の状態が悪ければ、術後の回復も順調に進みません。スポーツ整形外科の医師と理学療法士が評価をして、手術ができる状態まで回復したら、いよいよ手術を迎えます。

3.手術(膝前十字靱帯再建術)

ケガの後、適切なリハビリテーションを行えば、ケガをしてから3~4週で手術が可能となります。当院で実施している膝前十字靱帯の再建は大きく2種類あります。1つは半腱様筋(はんけんようきん)と薄筋(はっきん)という、もも(大腿)の後ろの筋肉の腱を使用するものです。もう1つは骨付き膝蓋腱(しつがいけん)という、膝のお皿のしたにある腱を使用するものです。どちらの手術を選択するかはスポーツ整形外科の診察時にお話があります。手術は内視鏡にて行われます。

4.術後リハビリテーション

手術後は膝の可動域や筋力などの回復具合によって多少前後することはありますが、およそ以下のようなスケジュールとなります。
手術日前日より入院、手術翌日はベッド上安静、CPMという機械で膝を動かす練習をします。手術後2日目からリハビリテーション開始となります。リハビリテーションは基本的に痛みや不安感のない範囲で進められ、けっして無理のないように行われます。リハビリテーション室では膝の関節可動域ex.、筋力ex.、歩行ex.を中心に行います(写真)
リハビリテーション開始当初から痛みや不安定感のない範囲で体重をかけていき、通常1週前後で杖や装具がなくても安定した歩行が可能になります(院内での生活は、事故防止のため最低1週間松葉杖を使用します)。日常生活レベルの活動(通勤、通学、階段昇降など)は、およそ10日前後で可能となりますのでこの時期に退院となります。4週前後で自転車エルゴメーター、8週前後でジョギングが可能になります。競技の種類にもよりますが、筋力測定で合格すれば5ヶ月頃より非対人のスポーツ練習を開始し、8ヶ月前後より競技復帰という形になります。


膝の関節可動域ex.
(ヒールスライド)

筋力ex.
(クオータースクワット)

歩行ex.
 

入院中のリハビリテーション

以上、当院における膝前十字靱帯損傷の治療の流れを説明しました。同じケガでも患者さんにより症状は様々で、膝を捻った後、膝前十字靱帯の損傷に気づかずに生活している人も多いようです。個人で簡単に判断せず、専門の医療機関を受診することをおすすめします。

以下に患者様から良く聞かれる質問を載せてみました。ご参照下さい。

以下に患者様から良く聞かれる質問を載せてみました。ご参照下さい。

Q:他の病院で膝前十字靱帯が切れているかどうか内視鏡を入れてみないと分からないと言われたのですが、内視鏡検査をしないと靱帯が切れているか分からないものなのでしょうか?
A:当スポーツ整形外科の医師は膝前十字靱帯損傷の患者さんを専門的に治療し経験も豊富です。ですから実際診察をしていて、膝前十字靱帯を損傷し、どのくらい機能的に働いているかは内視鏡検査をしなくても分かります。すなわち当院スポーツ整形外科では、基本的には検査のためだけの内視鏡検査は行われていません。

Q:膝前十字靱帯再建術後の傷の跡はどれくらいの大きさなのですか?
A:当院の方法(半腱様筋・薄筋腱使用)では、膝のお皿の下方の両脇に約1cm傷跡が2カ所、向こうずね(脛骨)に約3cmの傷跡が1カ所。同時に半月板の縫合術をおこなう場合はこのほかに3~4cmほどの傷跡がつく場合があります。



(左)18歳女性 術後6ヶ月  (右)22歳男性 術後23日

Q:膝前十字靱帯の再建の手術をしなければどのようなデメリットがあるのですか?
A:膝前十字靱帯が切れたままでスポーツを続けていくと、その後繰り返し膝をひねってしまうことが多いです。この症状を膝崩れ現象といい、その都度、正常な他の組織、例えば半月板や関節軟骨などが損傷されていく場合があります。この症状は筋力を回復させても改善されないことが多く、元のスポーツレベルへ復帰するためには手術を選択する選手が多いようです。スポーツをしない日常生活だけ行えれば良いという人もなかにはいらっしゃるので、そのような人は必ずしも手術をしなければならないということはありません。細かい点はスポーツ整形外科の医師と相談してください。

Q:年齢が高いと手術できないと言われました。何歳くらいまで手術は可能ですか?
A:基本的に患者様本人のニードにあわせて手術は行われます。最近では中高年の方でもテニスやバレーボール、サッカーなど趣味のレベルでスポーツを行っている方はたくさんいらっしゃいます。当院スポーツ整形外科では、今後もスポーツを続けたいという意志と手術をしたいという希望がある方は、60代半ばの方まで手術の経験があり、現在のところ良好な成績を収めています。ただし、年齢が高くなればなるほど関節や骨の状態が悪くなっている事が多いので、スポーツドクターと細かく相談しながら手術をするか決定しています。