上腕骨顆上骨折について

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【特徴】

  • 子供が手をついて転んだ時に好発する合併症を起こしやすい骨折である。
  • 幼少期(2〜13歳、特に6〜7歳)に好発し、肘関節周辺の骨折のうち最も頻度が高い。

【発生機序・分類】

  • 発生機序から伸展型骨折と屈曲型骨折に分ける。発生頻度は伸展型が多い(約98%)。
    • 伸展型骨折では、肘関節伸展位で手を衝いて倒れた場合に、肘関節部に強力な前方凸の屈曲力が働き骨折する。骨折線は前方から後上方に走行し、遠位骨片は近位骨片の後上方に転位するため、肘関節後方脱臼と類似の外観を呈する。内側皮質の粉砕や骨折線が斜走するとき、遠位骨片の骨折面における内旋転位はほとんど内反を引き起こす。(※伸展内反型が多い)
    • 屈曲型骨折では、肘関節屈曲位で肘部を衝いて倒れた場合に、上腕骨遠位端部に後方凸の屈曲力が作用して骨折する。骨折線は後方から前上方に走行し、遠位骨片は近位骨片の前上方に転位する。

【肘関節診断の要点】

 

  • 肘関節を屈曲し後方から見た場合、内側上顆と外側上顆、肘頭を結ぶ三角を「ヒューター(Hüter)三角」という。正常の場合は肘頭を頂点とした下向きの二等辺三角形を形成するが子の骨折で転移があればこの三角が乱れる
  • [ ファットパッドサイン fat pad sign ]
    • このサインは通常鉤突窩や肘頭窩にある脂肪組織が関節内骨折による血腫で圧迫されて移動したために現れる透亮像である。
    • 特に肘頭窩から移動した背側の透亮像の存在に注目することが大切である。
    • 骨片の転位があっても、関節包が破れていなければファットパッドサインは出現する。関節包の断裂(破れ)があると、血腫は流失するため明瞭ではなくなる。X線所見で骨折線が不明の場合でも、骨陰影のほか、軟部組織の陰影にも留意することが必要である。
    • 特に正常では後方に透亮像を示すことはないのでこれがあれば陽性である。
    • レントゲン上で骨折がないように見えてもこの線が現れる場合はなんらかの骨折があることを考える。
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固定法】

  • 伸展型骨折の場合、肘関節90〜100°、前腕回内位で、屈曲型骨折の場合は、肘関節80〜90°、前腕回内回外中間位で、どちらも肩からMP関節の手前までギプス副子、またはクラーメル副子などで約4週間固定する。

【整復・後遺変形のX線像による評価】

  • 整復直後の整復の適否を評価するのに前後像では「バウマン(Baumann)角」を用い、健側と比較して行う。また、側面像では上腕骨遠位端の前方傾斜角(FTA フォワードティーチングアングル)を用いる。後遺症として内反変形を残したときは運搬角(CA キャリングアングル)が減少する。
    • CA:運搬角(5〜10°)
    • BA:バウマン角:約20°(10〜20°)
    • TA:傾斜角(約45°)

【合併症】

  • いくつかの合併症があり、循環障害は「阻血の5P」に注意し、神経損傷では「正中神経(猿手に)」「橈骨神経(下垂手に)」「尺骨神経(鷲手に)」が損傷され、皮膚損傷では、近位骨片端で肘関節屈側の皮膚を損傷し、小孔から出血を認める「開放性骨折(約1%)」となることがある。
  • 神経障害として、前方へ突出した近位骨片は、骨膜のみではなく上腕筋や血管神経束を損傷する可能性がある。近位骨片が外側へ転位すると橈骨神経が、内側へ転位すると正中神経が損傷される。
  • 内側転位は上腕筋の外側と橈骨神経を損傷する可能性が考えられる。外側転位が正中神経を損傷するメカニズムは、近位骨片が後方・外側に転位し、近位骨片と円回内筋の繊維弓によって正中神経が損傷、あるいは絞扼される為である。さらに正中神経が分岐する前骨間神経も前腕の近位⅓部で圧迫される事になる。

骨折転位(骨片のズレ)がないか、わずかの場合にはギプスや装具による治療を行いますが、残念ながら大多数は手術が必要となります。 とくに若年、壮年の場合には手術をして関節面を正確にもどして固定し、早期から関節を動かすリハビリをしないと、癒合不全(骨のつきが遅くなったり、骨がつかない)や拘縮(関節が固まってしまう)が起こり、治療期間も長びくことになります。

整復困難な場合や、転位が大きい場合は可及的に手術を行います。

 

全身麻酔で骨折部を整復し、キルシュナ-鋼線やプレ-トで両側より固定を行う。

 

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【後療法】

  • 再転位の防止に注意し、循環障害、神経損傷の有無などに注意する。拘縮予防やROM改善には強力な手技や暴力的他動運動は行わずに自動運動を主体に行う。(※骨化性筋炎になる場合があるため)

【合併症、後遺症】

初診時に、神経・血管損傷に関する検査が必要である。(チアノーゼなども含む)

  • 阻血性拘縮(フォルクマン Volkmann 拘縮)
    血流の傷害から発生する阻血性拘縮は上腕骨顆上骨折に伴うものが最も多い。
  • 骨化性筋炎(異所性骨化)
    関節の周囲の筋肉にカルシウムが沈着し骨のようになる。
  • 屈伸傷害
    肘関節症障害を残し、特に(他動での)屈曲障害が多い。(後置機能障害)遠位骨片の傾斜角(TA)の整復が不完全な場合に起こりやすく、屈曲制限・過伸展を伴う。(※肘関節の拘縮が起こる事は少ない)
  • 形態的変化
    • 内反肘と外反肘を起こし、内反肘が多い。(後遺障害)
    • 上腕骨顆上部後内側は骨膜が厚く、骨折によって切れることは少ないとされ、遠位骨片の後上方転位に伴い遠位骨片から剥離した状態が多い。このため内反内旋変形を遺残しやすい。この内旋変形の遺残が内反肘変形を引き起こす。
    • 内反肘変形は自家矯正されない。
    • 偽関節は骨癒合が良好なので起こることはすくない。