胸郭出口症候群

 症状と病態

 「胸郭出口」とは、鎖骨と第1肋骨の間にある、すき間のことです。

そこには、前斜角筋と中斜角筋(どちらも頚椎の横突起から第1肋骨までの筋肉)の間、鎖骨と肋骨の間の下を、腕や手指に行く末梢神経の束:腕神経叢(脊髄から出てくる第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成される)と鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が通っています。この神経の束や、腕や手指に行く鎖骨下動脈や鎖骨下静脈という血管などが圧迫されて起こる病気です

 

首や肩・腕を特定の位置にもっていくと、腕や手指にしびれやだるさ、痛みなどが現れます。首から肩甲骨にかけて痛みがある、首から肩、腕へかけてだるくなり、疲れやすさやしびれを感じる、小指や薬指の知覚異常などが生じます

 

 この病気は「首が長くなで肩で筋肉が少ない人」に起こりやすく、30歳前後の女性に多く見られます。

また、首が短く、いかり肩の人も胸郭出口が狭いので発症しやすい傾向があります。

 

 

このトンネルの間で、神経と血管の通り道で圧迫が生じると神経や血管の症状が出現します。女性の場合には、肩周辺の筋力が弱いので、鎖骨を含む上肢が下方に引っ張られ、血管や神経を通すトンネルが狭くなってしまい神経や血管に圧迫をうけ、症状が出るとされています。これを「牽引型」といいます。。

 

症状

首周辺の痛みや肩のこり
  首から肩甲骨にかけて痛みがある

上肢から手にいたるしびれがある

 主に血管による圧迫の症状として出るのが「腕から手にかけてのしびれ感」です。日常生活で、つり革につかまる時や、物干しの時のように、腕をあげる動作で、肩から手にかけてのしびれが生じます。手が白くなったり手が冷えるとともに、脈拍が弱くなるといった症状も出てきます。ちょうど正座した時の足のしびれと同じ様に考えるとよいと思います。

  神経の圧迫による症状と考えられるものが、肘から手首にかけてと手の尺骨側(小指側)にしびれ感やビリビリ感などの感覚障害と手の握力低下と、細かい動作がしにくいなどの巧緻運動障害が現れる場合があります。  同時に肘から手に至るうずくような、ときには刺すような痛みが生じます。

 

腕を長く挙げられない 

  腕を長く挙げているとだるくなってあげれなくなります

 

 

 

胸郭出口症候群の分類

 

「胸郭出口症候群」の画像検索結果1:前斜角筋と中斜角筋の間:斜角筋症候群

               2:鎖骨と第1肋骨の間(肋鎖間隙)肋鎖症候群

               3:小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後ろ:過外転症候群

1斜角筋症候群

  鎖骨のそばに斜角筋三角と呼ばれる神経血管束の通り道があります。斜角筋(首を前に傾けるための筋肉)がなんらかの原因で緊張状態になり、通り道が狭まって起こるものが「斜角筋症候群」です。斜角筋症候群とは、前斜角筋と中斜角筋という、首の筋肉の間で圧迫されるいる状態です。症状としては、肩から腕や手にかけての感覚異常・脈拍低下・皮膚温度低下・血圧低下や、手や足の指先の小さな動脈の血流不足が発作的に発生し、「冷感」や「皮膚色の変化」が現れる血行障害などが挙げられるそうです。

 

2肋鎖症候群

肋鎖症候群とは、鎖骨第一肋骨との間で、神経や血管が圧迫されているもので、最も多いのはこのタイプです。症状とでては、肩・腕・手・指や背面に痛みやしびれなどが現れるということです。

原因としては、肩の上に物を担いだり、リュックサックを担いだりしていることが多い場合で、それにより肋骨と鎖骨の間で神経血管が狭められた結果によります。また鎖骨の骨折による変形が起こっても起こります。 

 

 3過外転症候群

過外転症候群とは、「小胸筋症候群」とも言われています。肋骨と鎖骨の間から出てきた神経と血管は、わきの下を通って腕にのびています。わきの下のすぐ直前では、小胸筋という筋肉が、これらの神経と血管を前のほうからおおっています。
 肩を外側にあげるとこの小胸筋が引き伸ばされます。この小胸筋が異常に緊張して、神経血管束が圧迫されて怒るものを過外転症候群といいます。
 よく起こるのは腕をあげて作業をする人です。

4頚肋症候群

通常肋骨は胸椎に続いて胸椎の横突起についています。まれなことですが第7頸椎のところに肋骨がある人います。約0,5%の人にあるといわれています。これがもとで鎖骨下動脈や静脈、腕部神経叢を圧迫することになる場合があります。
 そして、その頚肋症候群は、肘から手首および手の痛み・しびれが、小指側に偏っているのが特徴です。腕の皮膚が白くなることもあります。

 「眼瞼下垂」「縮瞳」「眼球陥没」などが出現することがありますがこれは頸部の自律神経を圧迫した症状です。

単純X線撮影

 エックス線検査によって、頚肋の有無を調べます
 

MRI(磁気共鳴画像診断法)検査

MRIは、頚椎単純X線撮影では評価できないような、軟組織の評価に優れています。
  

Wrightテスト

鎖骨下動脈の圧迫する試験として、Wrightテストというものがあります。患者さんの両肩関節を、外転90度、外旋90度、肘90度曲げた位置(肘を曲げて横に万歳をする形)にとってもらうと、橈骨動脈の拍動が減弱します。このことにより、肋鎖間隙での圧迫が考えられるようです。

 

 

Morleyテスト

鎖骨の上のくぼみを指で圧迫することにより、胸郭出口部の圧痛と、腕にひびく痛みがあるかどうかを調べる検査です。鎖骨上窩を圧迫して圧痛の有無と腕へのしびれや痛みの再現を検査します。
 

 Edenテスト

両方の胸を張りかつ両肩を後下方に引くと、橈骨動脈の脈拍が減弱すれば、肋鎖間隙での圧迫が考えられます。

これらの徒手検査は症状のある側とない側とで同じテストをし、差があればはっきりします。また、これらのテストのときに、いつもの症状の再現性があれば診断は確かなものになります。。
 

 

 Roosテスト

 

 Roosテストは、両腕をばんざいをする位置より、やや肩を落とした状態にし、指をグ-パ-を繰り返してもらいます。正常な人でも両腕がだるくなってきます。3分以上この運動を続けられれば正常ですが、この病気の人は途中で手がだるくなってできなくなります

 

治療

非ステロイド

 

痛みが強い胸郭出口症候群の場合、薬物療法も行なわれる場合があります。内服で非ステロイド性抗炎症薬や筋弛緩薬、ビタミンB12製剤、抗不安薬などが用いられることがあります。

 

神経ブロック

鎖骨上部の前斜角筋に局所麻酔を注射して、効果があれば「斜角筋症候群」である、と判断できることから、検査も兼ねた治療といえます。週に1回、数ヶ月ほど続けることが多いようです

 

KSバンド

「胸郭出口症候群...」の画像検索結果

熊本大学整形外科で考案された胸郭出口を広げるために考案された装具です。鎖骨と肩甲骨を持ち上げます。姿勢を矯正する作用も同時にあります。

肩甲骨周囲や肩の周りの筋力増強や体操によってリハビリをしながら使用します。2-3か月の使用で効果が認められます。

 

運動療法

首や肩の筋肉を鍛え姿勢を正す

胸郭出口症候群の人は基本的に猫背でなぜ肩筋力が弱い人に多くみられます。

普段より姿勢を良くして猫背を矯正すると共に肩周辺の筋力をつける意識が必要です。

 

症状を和らげる体操について説明します。

 体操

胸郭出口を広げる、肩甲挙筋や前鋸筋(肩甲骨を前方に引き付ける筋肉)の筋力をアップさせるなどの意義があります。

 

1つの体操につき10秒~20秒程度です。1日に5~10回が目安です。

特になで肩の人には効果がありますので根気強く行ってください

 

体操

立った状態で背筋と首をまっすぐに伸ばします。肩を上にあげ(肩をすくめる)、そのまま肩を前方に出します。この時鎖骨の上にくぼみができるようにしましょう。

そのままの状態で脇を締めてひじを直角に曲げます。息を吐きながら右手のこぶしを開いた左手で受け止め、同時に右肩を前方に突き出す。10~20秒押します。
左右の手を替えて同じ体操を行います。左右5回ずつ行ってください

 

 

肩甲挙筋、前鋸筋、を鍛える

 

 立った状態で背筋と首をまっすぐに伸ばし、肩をすくめます。そしてそのまま肩を前方に出します。(鎖骨のうえにくぼみを作る)そのままの状態で脇を締め、左手で右手首を掴み、右前腕を外に回しますがこのとき左手はそれに対抗して右手を反対に引っ張ります。この体操で筋肉を鍛えるだけでなく神経や血管を緩めることができます。

 左右の手をかえて同じ体操を行います

 

生活指導

改善には時間がかかることを認識することが大切です。運動療法を根気強くしましょう。
    姿勢を良くして猫背を改善しましょう。下を向いた姿勢、長時間同じ姿勢を続けないようにしましょう。

 肩に重いものをかけないように気を付けましょう。
 
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手術

 上記にあげた、「薬物療法」・「神経ブロック」・「首や肩の筋肉を鍛える」などで改善傾向をし餌ない場合や、悪い場所がはっきりしている場合には手術も考慮します。

肋鎖症候群では肋骨を部分的に切除して、鎖骨と肋骨の間をのすき間を広げます。

頚肋が原因でであればこれを切除します。

また斜角筋症候群では筋肉を部分切除することもあります。

                         小林整形外科 宇部市 ホ-ムペ-ジ