手根管症候群

指がしびれる病気のうちの代表的なものです。

(なおこのペ―ジはNHKの健康番組で放送された内容を参照しまた私見も述べています。)

主な症状は親指から薬指にかけてのしびれです。そして典型的な場合、薬指のしびれは親指側の半分に限局しており、薬指の小指側の半分と小指自体にはしびれは見られないのが特徴です。このしびれ感は朝方が強いのですが、これは寝ているときには動きがないため局部に腫れが生じてそのために圧迫が強くなって起こると考えられます。

 

手根管症候群

 

原因

 手のひらの付け根の部分の断面をみてみると、手根管というトンネルがあります。このトンネルは、手首のに囲まれていて、その中を9本の腱と正中神経が通っています。腱を覆う膜や、それぞれの腱を連結している「滑膜」が炎症を起こし、腫れて厚くなり靭帯で囲まれた場所の面積が狭くなります。するとそのトンネルの中を通っている正中神経が窮屈になりこの正中神経が圧迫され、指にしびれが起こる病気が「手根管症候群」です。

どうして?小指以外がしびれる

 

 手根管症候群の特徴的な症状は、「親指から薬指の半分までがしびれる、小指以外にしびれ・痛みがある」、「夜間や早朝のしびれ・痛みが強くなる」などです。小指と環指の半分は尺骨神経という神経に支配を受けています。手根管の中を通っている「正中神経」は、手のひら側の親指から薬指の親指側までの感覚と親指の動きなどだけを司っているのです。そのため、小指には症状が現れません。もし小指がしびれているようならほかの病気を考えなければなりません。

 

 病気が進行すると「親指の付け根がやせる」という症状が現れます。この部分を母指球と呼びますがこれがあるのは人間の手だけで猿にはこの部分の膨れがありません。そのためここがやせてきた手を猿手といいます。
 これは、親指の付け根の筋肉の神経までが障害され、親指の付け根の筋肉が萎縮してしまうため起こります。親指と人差し指などの他の指を、向かい合わせるような動作(対立)が難しくなります。また、細かいものがつまみにくくなります。対立運動とはつまみのための運動です。おやゆびがないとこの動きができなくなります。この対立運動が手の機能の中で最も重要なものであると言っても過言ではないでしょう。そして、この動きをコントロールしているのがまさに正中神経の運動枝と呼ばれる神経なのです。

 


 

 

起こりやすい人

 「更年期以降の女性」が手根管症候群を起こしやすいと言われています。また妊娠後期の女性もよく起こります。これは女性ホルモンのバランスの乱れが関係しているとされています。また、「手首の骨折経験者」関節リウマチや結核などがあります。手根管自体が狭窄するものとしては橈骨遠位端骨折後の変形、手根骨脱臼などがあります。仕事・スポーツ・家事などで「手首を使い過ぎている人」などに多発する傾向があります。長期間「人工透析を受けている人」は、アミロイドというたんぱく質が手根管内にたまりやすいため、これが神経を圧迫して発症しやすくなります。

 

自分でできる検査法

手根管症候群を診断するための有名な検査にPhalen test(ファレンテスト)と言うものがあります。これは手首を手のひら側に曲げてしばらくおくと、手根管症候群の場合はしびれなどの症状が強くなります。これも手首を曲げることによって手根管内圧がさらに高まることを利用したものです。

【ファーレンテスト】
① 体の正面で両手の甲を合わせ
② 1分間その状態を保つ

 

 

手根管症候群の検査

 

 「手根管症候群」は、医療機関ではどのように検査・診断していくのでしょうか?まず、「問診」や「ファーレンテスト」などを行います。その上で、手根管症候群が疑われる場合には、手首の「X線検査」や、神経を微弱な電流で刺激して、神経が信号を伝える速さなどを調べる「神経伝導検査」などで、神経の状態・機能を調べます。

 

治療の基本は安静

 

 治療の基本は「安静」です。また、「」を使います。薬には、塗り薬、貼り薬、のみ薬の「痛み止め」、末しょう神経を保護・再生する「ビタミンB12」があります。通常の痛み止めでは効果がない場合には、神経障害から来る痛みを抑える「神経障害性とう痛治療薬」を使う事もあります。「ステロイド薬」と「局所麻酔薬」を手根管の中に直接注射し炎症を抑え痛みをとります。

 

 手首の安静を保つために、2~3か月間「装具」を装着することもあります。装具はできるだけ長時間つけた方が効果はありますが、昼間は着けられないという場合は、夜間、寝ている間に着用するだけでも効果があるとされています。
 軽症の場合、1回~数回のステロイド薬などの注射と手首の安静で症状が治ることが多いです。

 

治らなければ手術

手根管症候群が進行しますと神経の運動をつかさどっている枝にも影響が及び、母指球の筋肉の動きが次第に悪くなってきます。見た目には手根管症候群が進行すると母指球部が痩せてきます。「指はしびれるし、親指の付け根も痩せてきた」場合は手術を考慮すべき、かなり進行した手根管症候群と考えて頂いてよいと思います。この状態を放っておくと母指球の高まりはすっかり無くなり、対立運動も出来なくなってしまいます。ここまで放置すると、たとえ手根管症候群の手術をしても筋肉運動の回復は期待できませんので、腱移行術という手術によって親指の対立運動を回復させることになります。

 

 薬や装具などを使っても効果が十分ではなく、「痛みやしびれが強い」、「親指の付け根がやせてきた」、「指の感覚が失われてきた」などの症状がある場合には、手術が検討されます。

手術

【手根管症候群の手術】
① 手根管の屋根にあたる、手のひら側の靭帯を切開
② 正中神経の圧迫を取り除く
 靭帯を切開したままでも、時間とともに再び別の組織で覆われてきますので心配ありません。手術後しばらくは握力が落ちますが、6か月程度で正常に戻ると言われています。手術は、局所麻酔下で、30分程度で終了しますので、日帰りも可能です。また、皮膚を小さく切開して、「内視鏡」を挿入して、靭帯を切り離す方法も行われています