メトキセレ-ト

 

 1 適応
関節リウマチ(RA)と診断されて予後不良と思われる患者では,リスク・ベネフィットバラン スに鑑みて,MTXを第1選択薬として考慮する
他の従来型合成抗リウマチ薬の通常量を2〜3カ月以上継続投与しても治療目標に達しないRA 患者には,積極的にMTXへの変更またはMTXの追加併用投与を考慮する.
 2 禁忌と慎重投与

妊婦,本剤成分に対する過敏症,胸・腹水を認める患者や,重大な感染症や血液・リンパ系・ 肝・腎・呼吸器障害を有する患者は投与禁忌である(表2).軽度の臓器障害を有する患者や, 高齢者,低アルブミン血症を認める患者には,特に慎重に経過観察しながら投与する(表3).

RAの予後不良因子 :米国リウマチ学会推奨(2012) 欧州リウマチ学会推奨(2013) ・HAQ-DI 高値などの身体機能制限 ・骨びらん ・関節外症状 ・ リウマトイド因子または抗シトルリン化 ペプチド/蛋白抗体陽性 ・非常に高い疾患活動性 ・早期からの関節破壊の存在 ・ リウマトイド因子または抗シトルリン化 ペプチド/蛋白抗体(高値*)陽性
*基準値上限の3倍を超える.

 

関節リウマチ治療における メトトレキサート(MTX) 診療ガイドライン 2016年改訂版【簡易版】

 3 用量・用法

1.用量( 1)開始時投与量 MTXは原則, 6〜8 mg/週で経口投与を開始する.開始時投与量は副作用危険因子や疾患活動 性,予後不良因子を考慮して決定する.特に,予後不良因子をもつ非高齢者では,8 mg/週で開 始することが勧められる.
◇低用量で治療開始が勧められる症例  ❶高齢者,❷低体重,❸腎機能低下症例,❹肺病変を有する例,❺アルコール常飲者,❻NSAID複数内服例.

 

 

 投与禁忌

1.妊婦または妊娠している可能性やその計画のある患者,授乳中の患者
2.本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
3.重症感染症を有する患者
4.重大な血液・リンパ系障害を有する患者  ① 骨髄異形成症候群,再生不良性貧血,赤芽球癆の病歴のある場合  ② 過去5年以内のリンパ増殖性疾患の診断あるいは治療歴のある場合  ③ 著しい白血球減少あるいは血小板減少    上記の判定には以下の基準を目安とするが,合併症の有無などを考慮して判断する                ❶白血球数<3,000/mm3,    ❷血小板数<50,000/mm3
5.肝障害を有する患者  ① B型またはC型の急性・慢性活動性ウイルス性肝炎を合併している場合  ② 肝硬変と診断された場合  ③ その他の重大な肝障害を有する場合
6.高度な腎障害を有する患者(判定には,以下の基準を参考とする)  ・透析患者や腎糸球体濾過量(GFR)<30 mL/分/1.73m2に相当する腎機能障害
7.胸水,腹水が存在する患者
8.高度な呼吸器障害を有する患者(判定には,以下の基準を参考とする)  ① 低酸素血症の存在(室内気でPaO2<70 Torr)  ② 呼吸機能検査で%VC<80%の拘束性障害  ③ 胸部画像検査で高度の肺線維症の存在

MTX慎重投与に相当する患者とその対応 状態 対応
感染症リスクが 高い65歳以上の高齢者 ・肺炎球菌ワクチンの投与 ・インフルエンザワクチンを毎年投与

 潜在性結核感染症が疑われる例 イソニアジドの投与→300 mg/日,低体重者では5 mg/kg体重/日
 ニューモシスチス肺炎の 発症リスクが高いと判断される例
 スルファメトキサゾール・トリメトプリムによる化学予防 →1錠または顆粒1 g/日を連日  

 あるいは錠または顆粒 2 g/日を週3回
 血液・リンパ系 障害を有する白血球数<4,000/mm3 血小板数<100,000/mm3 薬剤性骨髄障害の既往 ※白血球数<3,000/mm3  血小板数<50,000/mm3  は投与禁忌

 

可能な限り葉酸を最初から併用
 リンパ増殖性疾患の既往 ※ 過去5年以内の既往は投与禁忌 他の治療選択肢がないか十分に検討 リンパ節腫脹 悪性リンパ腫を疑う臨床徴候がないことを確認した後,MTX投与を 開始
 低アルブミン 血症を有する 血清アルブミン<3.0 g/dL MTX減量投与と葉酸の併用投与
肝障害を有するアルコール常飲者 飲酒を控えるように指導

 

B型肝炎ウイルスキャリア, 既往感染患者
・MTX 投与は極力避ける ・ MTX投与が避けられない場合:抗ウイルス薬による治療を先行 (消化器内科専門医と要相談)
C型肝炎ウイルスキャリア MTX投与開始前に消化器内科専門医などへの相談を考慮
 AST,ALT,ALP値が基準値の 上限の2倍を超える場合:原因を精査し,投与可能か判断する.

 投与する場合は,葉酸を併用しながら低用量から開始する

障害を有する腎糸球体濾過量(GFR) <60 mL/分/1.73m2に相当す る腎機能を有する場合 ※ 透析患者

 やGFR<30 mL/ 分/1.73m2に相当する腎障害 は投与禁忌

 

葉酸を併用しながら低用量よりMTX投与を開始 ※ 症状,末梢血検査,肝機能などの推移を注意深く観察
 呼吸器障害 を有する画像検査で,間質性肺炎,COPD, 非結核性抗酸菌症の疑い 精査(呼吸器専門医への相談も考慮)
 間質性肺炎(軽度)
 進行がないか,少なくとも3カ月間は経過観察(自覚症状,身体所 見,画像所見) ※ KL-6やSP-Dなどの血清バイオマーカーの値は参考程度にとどめる

 

4 ●関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版

 増量および用量の調節と最大投与量 :MTX治療開始後,4週間経過しても治療目標に達しない場合は増量する.通常,増量は1回に2 mgずつ行う.高疾患活動性,予後不良因子をもつ非高齢者では,2週ごとに2 mgあるいは4週 ごとに4 mgずつ迅速に増量してもよい. 
 副作用危険因子がなく,忍容性に問題なければ10〜12 mg/週まで増量する.効果が不十分で あれば,最大16mg/週まで漸増することができるが,他の従来型合成抗リウマチ薬や生物学的 製剤の併用を考慮してもよい.
2.用法
1週間あたりのMTX投与量を1回または2〜3回に分割して,12時間間隔で1〜2日間かけて 経口投与する.1週間あたりの全量を1回投与することも可能であるが,8 mg/週を超えて投与 するときは,分割投与が望ましい(図2).

■図1 開始時投与量とその後の用量調節 *リウマトイド因子(RF),抗シトルリン化ペプチド/蛋白抗体(ACPA). **基準値上限の3倍を超える. ***トファシチニブは製造販売後調査実施中であるので,csDMARD,生物学的製剤併用を優先する.
・高齢者 ・低体重 ・腎機能低下 ・肺病変(+) ・アルコール常飲 ・NSAIDなど複数薬物の内服 副作用危険因子(+)
6~8 mg/週で開始 適宜,葉酸併用

 

・高活動性 ・血清反応*(高値**)陽性 ・骨びらん ・身体機能制限
予後不良因子(+) 非高齢者
通常
2~4 mg/週で開始し, 慎重に漸増
適宜,葉酸併用 最大投与量は少なめに設定

 

16 mg/週
8 mg/週で 開始.適宜, 葉酸併用
効果不十分 であれば 4週ごとに 週2 mg増量
10~12 mg/週 まで増量 葉酸併用
効果不十分であれば 2週ごとに週2 mg あるいは 4週ごとに週4 mg増量
治療目標達成 治療目標達成 継続 
漸増効果不十分
MTXを アンカー とした 併用療法
csDMARD 併用
生物学的製剤 併用 トファシチニブ 併用***
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簡易版
3.併用療法におけるMTX 1)MTX と従来型合成抗リウマチ薬との併用療法 MTXを十分量(通常10〜12 mg/週以上)継続的に使用して,3〜6カ月経過しても治療目標に 達しない場合は,従来型合成抗リウマチ薬の併用は選択肢の1つである.その場合,MTXとの 併用により有効性が確認されているブシラミン(BUC),サラゾスルファピリジン(SASP),イ グラチモド(IGU),タクロリムス(TAC)を推奨する. 2)MTXと生物学的製剤との併用療法 MTXを十分量(10〜12 mg/週)継続的に使用して3〜6カ月経過しても治療目標に達しない場 合は,生物学的製剤の使用は選択肢の1つである.生物学的製剤使用の際は,MTXに追加併用 することで,より高い効果が期待できる.

3)MTXと分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)との併用療法 MTX効果不十分例に対して分子標的型合成抗リウマチ薬併用は選択肢になりうる. 
【投与方法】
■~8 mg/週  内服

MTX休薬(6日間)
…MTXの投与 …葉酸の投与
MTX休薬(6日間)
MTX休薬(5日間)

■10~16 mg/週  内服
【投与方法】 ①1日1回(朝)投与 ②1日2回,12時間ごと(朝夕)に投与 ③2日にかけて3回,12時間ごと(朝夕朝)に投与 適宜,葉酸 ≦5mgを1日1回(朝)投与
適宜,葉酸 ≦5mgを1日1回(朝)投与

MTX休薬(6日間)
MTX休薬(5日間)
MTX休薬(5日間) ③
①1日2回,12時間ごと(朝夕)に投与 ②2日にかけて3回,12時間ごと(朝夕朝)に投与 ③2日にかけて4回,12時間ごと(朝夕朝夕)に投与
(日)
(日)
■図2 MTXの用量別投与法
6 ●関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版
4)併用療法における用量 他の従来型合成抗リウマチ薬 ,生物学的製剤や分子標的型合成抗リウマチ薬と併用して使用す る際,MTXの用量は,MTX単剤治療の場合と同様に,最大16 mg/週まで使用できる.感染症リ スクがある症例では生物学的製剤併用時にMTXの減量を考慮してもよい.MTXをアンカーとし た併用療法を行っても効果不十分な場合は,MTXの増量も選択肢の1つである.
 4 葉酸の投与法(図2) 葉酸製剤の併用投与は,肝機能障害,消化器症状,口内炎の予防・治療および治療の継続に有効 であり,必要に応じて考慮する.MTX 8 mg/週を超えて投与する際や副作用リスクが高い高齢 者,腎機能軽度低下症例では,葉酸併用投与が強く勧められる.
葉酸製剤は5mg/週以下を,MTX最終投与後24〜48時間後に投与する.葉酸製剤は,通常, フォリアミン® を使用するが,重篤な副作用発現時には,活性型葉酸製剤ロイコボリン® を使 用する(ロイコボリン® レスキュー)注).  注)ロイコボリン®レスキュー(ロイコボリン®救済療法) 症状を伴う血球減少症のような重篤な副作用発現時には,ただちにMTXを中止し,ロイコボ リン®レスキューを行う.ロイコボリン®錠10 mg,6時間ごとに経口投与,あるいはロイコ ボリン®注 6〜12 mg,6時間ごと筋注あるいは静注投与する(ロイコボリン®の1日投与量 はMTX投与量の3倍程度を目安とする).MTXの排泄を促す目的で十分な輸液と尿のアルカリ 化を行う.ロイコボリン®投与は副作用が改善するまで行う.
 5 投与開始前のスクリーニング MTX投与開始前に,RA活動性評価ならびにMTXの副作用の危険因子の評価に必要な問診と診 察,末梢血検査,赤沈,一般生化学検査,免疫血清学的検査,胸部X線検査に加え,肝炎ウイ ルスと結核のスクリーニング検査を実施する(表4).
 6 投与中のモニタリング MTX投与開始後,安全性と有効性のモニタリングのために定期的な身体評価と関節評価および 検査を行う.一般検査はMTX 開始後あるいは増量後 ,6カ月以内は2〜4週ごとに行うのが望 ましい.項目として,末梢血検査(白血球分画,MCVを含む),赤沈,CRP,生化学検査(AST, ALT,ALP,アルブミン,血糖,Cr,BUN)および尿一般検査を実施する.投与量が決まり,有 効性と安全性が確認された後は,4〜12週ごとに検査を施行する.胸部X線検査は年1回施行 する.有効性の判定には,RAの疾患活動性と関節画像の両者による評価が望ましい(表5).

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表4 開始時スクリーニング検査
血液検査
すべての患者
末梢血検査(白血球分画,MCVを含む),赤沈,CRP
生化学検査(AST,ALT,ALP,LDH,アルブミン,血糖,Cr,BUN, IgG,IgM,IgA)
HBs抗原,HCV抗体,IGRA/ツベルクリン反応検査 ⇒ HBs抗原陰性 HBs抗体,HBc抗体※いずれかの抗体陽性ならHBV-DNA測定
⇒ HBs抗原陽性 HBe抗原,HBe抗体,HBV-DNA
尿検査 すべての患者 蛋白,糖,ウロビリノーゲン,尿沈渣
肺疾患関連検査
すべての患者 胸部X線検査(正面,側面)
間質性肺炎や呼吸器合 併症が疑われる場合
経皮的酸素飽和度(SpO2),胸部HRCT,間質性肺炎血清マーカー(KL-6/ SP-D),β-D-グルカン,抗MAC-GPL IgA抗体測定を考慮
IGRA:インターフェロンγ遊離試験,MAC:Mycobacterium avium complex,GPL:glycopeptidolipid


■表5 投与中モニタリング 安全性モニタリング 身体所見: 発熱,脱水症状,口内の荒れ,咳嗽,息切れ,リンパ節腫脹など ・
 :2 ~ 4 週 ごと
 (開 始 時 または 増量後6カ月間) ・ 4~12週ごと 
 (その後) 血液検査 末梢血検査(白血球分画,MCVを含む),赤沈,CRP, 生化学検査(AST,ALT,ALP,アルブミン,血糖,Cr,BUN) 尿検査 蛋白,糖,ウロビリノーゲン,尿沈渣

 

+肺疾患関連検査
すべての患者 胸部X線(正面,側面) 無症状なら年1回
胸部疾患合併例
胸部X線(正面,側面) 年1~2回
胸部HRCTおよび間質性肺炎血清マーカー(KL-6,SP-Dなど), β-D-グルカン,IGRA,抗MAC-GPL IgA抗体 適宜
+効性モニタリング 疾患活動性評価 DAS28,SDAI,CDAIなど 治療開始後は4~8週ごと

寛解,低活動性を 3カ月以上維持後は12週ごとまで延長可能血液検査 赤沈,CRP,MMP-3


画像検査

関節単純X線検査(手,足部,その他の罹患関節) 少なくとも年1回
関節エコー検査( 罹患関節) 可能な場合,適宜
身体機能評価 HAQ-DI 24~52週ごと


8 ●関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版
 

7 周術期の対応 整形外科予定手術の周術期において,MTXは継続投与できる.整形外科予定手術以外の手術や MTX 12 mg/週超の高用量投与例における手術の際には,個々の症例のリスク・ベネフィットを 考慮して判断する


 8 妊娠・授乳希望時の対応 MTX投与にあたり,あらかじめ児へのリスクを説明し,内服中は避妊させる.妊婦または妊娠 している可能性のある女性にはMTXの投与は禁忌である.妊娠する可能性のある婦人に投与す る場合は,投与中および投与終了後少なくとも1月経周期は妊娠を避けるよう注意を与える. 授乳中はMTXの投与は禁忌である.

 

 9 副作用への対応
1.一般的注意と患者教育 MTX開始時には,副作用の予防,早期発見,早期治療のために,主な副作用の初期症状を十分 説明し,投与継続中も患者教育をくり返し実施する.骨髄障害,間質性肺炎,感染症,リンパ 増殖性疾患などの重要な副作用については,危険因子の評価と予防対策を実施し,発生時には 適切な対処をすみやかに行う.
2.骨髄障害 MTXによる骨髄障害はしばしば致死的となるため,危険因子を考慮したうえで過量投与になら ないよう注意する.高齢,腎機能障害など高リスク例では葉酸を投与開始時より併用し,低用 量から開始し,高用量は避ける.誘因となる脱水徴候があるときや骨髄障害の発生が疑われる 重症な口内炎のときには,内服しないようにくり返し説明する. 1)危険因子・誘因 腎機能障害,高齢,葉酸欠乏,多数薬剤の併用,低アルブミン血症,脱水(発熱,摂食不良, 嘔吐・下痢,熱中症). 2)予防対策 ❶過量投与,誤服用を未然に防げるように,薬剤師との連携を密にする. ❷高度の腎機能障害(GFR<30 mL/分/1.73m2)を有する患者,透析患者に対しては投与しな い.中等度腎障害がある患者(GFR<60 mL/分/1.73m2)や高齢者,薬剤性骨髄障害の既往 を有する患者に対する投与は慎重にする.


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❸高リスク例では葉酸製剤を投与開始時から併用し,MTXの高用量を避ける. ❹白血球分画,MCV,腎機能をモニタリングする. 3)発生時の対処方法 ❶骨髄障害発症時にはただちにMTXを中止し,専門医療機関に紹介する. ❷頻回に末梢血液検査を行って,骨髄の回復を確認する. ❸重症な場合(大球性貧血<8 g/dL,白血球<1,500/mm3,血小板<50,000/mm3)では,
 活性型葉酸であるロイコボリン®レスキューと十分な輸液,支持療法を行う.

 


3.間質性肺炎 (MTX 肺炎) ①  初期症状に関する患者教育が重要である.MTX開始時には,原因の明らかではない乾性咳嗽, 息切れ,呼吸困難感を感じたときは,すみやかに受診をするよう説明する. ②  MTX肺炎は投与開始後2〜3年以内に発生することが多いが,投与期間の長い症例にも発生 する可能性があるので,投与中は常に念頭に置く.開始時および経過中は定期的に胸部画像 を評価する. ③  MTX肺炎が疑われたときには,すみやかに他の疾患を除外し,中等量〜高用量ステロイドを 中心とした必要な治療を開始する. 1)危険因子 既存のリウマチ性肺障害,高齢,糖尿病,低アルブミン血症,過去のDMARD使用歴が指摘 されているが,危険因子がない症例での発生も少なくない. 2)予防対策 患者にMTX肺炎の初期症状を説明し,症状が急性あるいは亜急性に出現した場合には,MTX を中止し,医療機関へ連絡と可及的すみやかな受診を指示しておく. 3)発生時の対処方法 ❶MTXをただちに中止した後,専門医療機関に紹介し,MTX肺炎,呼吸器感染症,RAに伴う 肺病変を鑑別する.必要に応じ呼吸器専門医にコンサルトする.鑑別のために聴診,経皮的 酸素飽和度モニター(SpO2),胸部X線検査,胸部CT検査〔高分解能CT(HRCT)が望まし い〕,β-D-グルカンなどの検査を行う. ❷MTXによる薬剤性肺炎が疑われた場合はMTXを中止後,ただちに副腎皮質ステロイドの中 等量〜高用量の投与(経口プレドニゾロン0.5〜1 mg/kg/日)を行う.重症度に応じて副腎 皮質ステロイドパルス療法を併用する. 必要に応じて,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)などの抗菌薬を併用する. 状況に応じて,真菌性・ウイルス性肺炎に対する治療も開始する. 副腎皮質ステロイドにて加療中には,新規の肺感染症に留意する. ❸MTXの再投与は行わない.その後のRA治療薬による薬剤性肺炎の発現にも十分留意する. 推奨⑳

 


10 ●関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版
4.感染症(ウイルス性肝炎を除く) ①  MTX投与前は感染症のスクリーニング検査を確実に実施し,感染症リスクを評価するととも に,抗結核薬,ST合剤の投与などの適切な予防対策を講じる. ②  早期発見と重症化を防ぐ目的で,感染が疑われる際の症状,休薬と早期受診について患者教 育を行う. ③  頻度が高い感染症として,約半数を占める呼吸器感染症と帯状疱疹の発現に注意して観察する. ④  長期投与例では,MTXによる免疫抑制,加齢,合併症等による感染症リスクの増大を考慮し, 診療にあたる. 1)危険因子 高齢,既存肺疾患,関節外症状,糖尿病,副腎皮質ステロイド使用,慢性感染症の合併,
 腎機能障害,骨髄障害,日和見感染症の既往. 2)予防対策 ❶活動性の感染症がある場合は,その治療を先行して行い,開始前に治癒を確認する. ❷肺炎球菌ワクチン(65歳以上),インフルエンザワクチン接種を積極的に実施する. ❸総合的に結核再燃のリスクが高いと判断される症例には,イソニアジドによる潜在性結核の 先行治療を考慮する. ❹総合的にニューモシスチス肺炎の発症リスクが高いと判断される症例には,ST合剤による化 学予防を考慮する.ST合剤が使用できない症例では,ペンタミジン・イセチオン酸塩吸入, またはアトバコン内用懸濁液の使用を考慮する. ❺症状および画像から非結核性抗酸菌症が疑われる場合には,喀痰検査,HRCT検査,抗MACGPL IgA抗体(キャピリア®MAC抗体ELISA)を測定し,必要に応じて呼吸器専門医などに コンサルトする. 3)発生時の対処方法 ❶ただちにMTXを中止し,適切な医療機関に対応を依頼する. ❷病原体の同定を進め,適切な抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬などによる治療を行う.必要 に応じて,感染症専門医などにコンサルトする.

 

5.消化管障害 MTX投与にあたり,口内炎や嘔気などの消化管障害が生じうることを投与開始時に説明する. 発生時には葉酸(フォリアミン®)や制吐薬が有効である場合がある. 1)危険因子 明らかな危険因子はない. 2)予防対策 葉酸製剤を投与開始時から併用する.
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3)発生時の対処方法 ❶葉酸(フォリアミン®)や活性型葉酸(ホリナートカルシウム;ロイコボリン®)を併用ある いは増量する ❷MTXの分割投与により消化管障害(嘔気,食思不振)が軽減される場合がある. ❸アフタ性口内炎に対しイルソグラジンマレイン酸塩が有効であることがある. ❹MTX服用日あるいは翌日の嘔気にグラニセトロン塩酸塩(保険適用外),ドンペリドン,メ トクロプラミドの併用が有用であったという報告がある.


6.肝障害(HBV再活性化を含む) MTX開始前には肝機能,肝炎ウイルスのスクリーニング検査(HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体) を確実に実施し,経過中は定期的にモニタリングを行う.MTXによる肝機能障害の予防には葉 酸製剤の併用が推奨される. 1)危険因子 慢性ウイルス性肝炎,肝炎ウイルスキャリア,その他の慢性肝疾患(脂肪肝含む),AST/ALT が基準値の上限の2倍を超える肝機能障害. 2)予防対策 ❶MTX投与中はAST,ALT,ALP,アルブミンなどを継続的にモニタリングする. ❷肝炎ウイルスキャリア・既往感染患者に対する予防対策:  a) B型肝炎ウイルスキャリアのRA患者ではMTXの投与を極力回避する.やむを得ず投与す る場合には,消化器内科専門医の管理のもと,抗ウイルス薬(エンテカビル水和物など) の予防投与を併用し,慎重にモニタリングする.  b) B型肝炎ウイルス既往感染(HBs抗原陰性,HBc抗体またはHBs抗体陽性)のRA患者でMTX 投与中の再活性化が報告されているのでガイドラインに沿って慎重にモニタリングする.  c) C型肝炎ウイルスキャリアのRA患者では,抗ウイルス薬治療に関して,まず消化器内科 専門医などへの相談を考慮する.これらの患者ではウイルス性肝炎が増悪する可能性が否 定できないため,リスク・ベネフィットバランスを慎重に検討する. ❸用量依存性肝機能障害に対する予防対策:用量依存性肝機能障害の予防には葉酸製剤の併用 (5 mg/週以下)が推奨される. 3)発生時の対処方法 ❶肝炎ウイルスキャリア・既往感染患者における肝障害:肝炎ウイルスキャリア・既往感染患 者に,肝機能障害が発現した場合には,MTX中止の可否も含めて,ただちに消化器内科専門 医にコンサルトする. ❷肝炎ウイルス非感染患者における肝障害:MTX投与中のAST/ALTが基準値上限の 3倍以内 に上昇した場合には,MTX投与量を調整する,あるいは葉酸製剤の開始または増量を考慮す る.AST/ALTが基準値上限の3倍以上に増加した場合には,MTXを一時中止もしくは減量す 推奨
12 ●関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版
るか,葉酸製剤の開始あるいは増量,連日投与を行う.肝機能が改善しない場合には,肝機 能障害の他の原因を検索するとともに,消化器内科専門医へのコンサルトを考慮する.
7.リンパ増殖性疾患(LPD) MTX投与中にリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders:LPD)を疑う症状,徴候,検 査異常を認めた場合は,MTXおよび併用している免疫抑制薬をただちに中止する.RA患者で免疫 抑制薬治療中に発生するLPDは節外病変が高頻度であるため,軟部組織腫瘤・難治性口内炎など についても,必要に応じて血液内科や関連診療科にコンサルトする.LPD寛解後のRA治療は,免 疫抑制薬を極力避け,MTXの再開やTNF阻害薬の投与は再発のリスクを考慮し原則行わない. 1)危険因子 RA患者に発生するLPDの危険因子は明らかではない. 2)早期発見対策 ❶LPDに好発時期はない.MTX使用中に,原因不明の発熱,寝汗,体重減少,リンパ節腫大, 肝脾腫,白血球分画の異常,貧血・血小板減少,高LDH血症などを認めた場合にはLPDを鑑 別する. ❷LPDではリンパ節外が原発であることも多く,皮膚病変(皮下腫瘤),咽頭・扁桃病変(難治 性咽頭痛,扁桃腫大など),軟部組織腫瘤,異常肺陰影の出現などが初発症状であることも念 頭に置く. ❸患者には頸部や腋窩などにリンパ節の腫脹を見つけた際には,すぐ受診するようあらかじめ 説明しておくことも大切である. 3)発生時の対処方法 ❶LPDが疑われた場合には,MTXと併用している生物学的製剤や免疫抑制薬を中止する. ❷LPDが疑われる部位により皮膚科,耳鼻咽喉科,血液内科などの関連診療科にコンサルトする. ❸約半数の症例では薬剤中止で軽快するが,免疫抑制療法中止のみでは消退しない場合には,生 検を積極的に考慮する.リンパ腫と診断された場合には化学療法などを考慮する. ❹LPD寛解後のRA治療は,免疫抑制薬を極力避け,MTXの再開やTNF阻害薬の投与は再発の リスクを考慮し原則行わない.
8.薬物相互作用 MTXとの相互作用が知られている薬物の併用時には副作用の発現・増強に留意する.副作用発 現時には必要に応じてMTXまたは併用薬の投与量の調整を考慮する.