肩関節のスポ-ツ障害

   野球の投球動作は5つに分類されます。

  1. ワインドアップ期(投球動作を開始してからボールをグラブから離すまで、あるいは振り上げた脚を最も高く上げるまでの期間)、
  2. アーリーコッキング期(振り上げた脚が地面に着くまで)、
  3. レイトコッキング期(ボールを握った手が最も高い位置に達してから肩関節が最大外転・外旋位に達するまで)
  4. アクセラレーション期:加速期(レイトコッキング期終了後、ボ-ルリリ-スまで)、
  5. フォロースルー期:減速期(ボールがリリースされてから腕を振り切るまで) 

投球動作を繰り返すことにより、コッキング期(肩を後方に挙上する)には肩関節内部で腱板関節面と後上方関節唇の衝突が起こり(関節内インピンジメント)、腱板炎、腱板断裂、関節唇損傷を引き起こします。 
 腕でボールを加速するアクセラレーション期には、腱板や肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)が肩峰と鳥口(うこう)肩峰靭帯により構成されている肩峰下面の「アーチ」(屋根)と衝突するようになります。(インピンジメント症候群)これが慢性的になると肩峰下滑液包の炎症、腱板炎、腱板断裂や肩峰の変性(傷んで弱ること)などを生じます。 
 フォロ-スルー期には後方関節包に強い牽引力(けんいんりょく:引っ張りの力)がかかるため、後方関節唇損傷ベネット損傷などが起こります。野球の投球動作はの5つに分類されます


 投球動作を繰り返すことにより、コッキング期(肩を後方に挙上する)には肩関節内部で腱板関節面と後上方関節唇の衝突が起こり(関節内インピンジメント)、腱板炎、腱板断裂、関節唇損傷を引き起こします。 
 腕でボールを加速するアクセラレーション期には、腱板や肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)が肩峰と鳥口(うこう)肩峰靭帯により構成されている肩峰下面の「アーチ」(屋根)と衝突するようになります。(インピンジメント症候群)これが慢性的になると肩峰下滑液包の炎症、腱板炎、腱板断裂や肩峰の変性(傷んで弱ること)などを生じます。 
 フォロ-スルー期には後方関節包に強い牽引力(けんいんりょく:引っ張りの力)がかかるため、後方関節唇損傷ベネット損傷などが起こります。

 

機能障害の原因
 
ボールを投げる度に肩には約100kgの負荷がかかります。また、ボールが手を離れた直後には、肩甲骨周囲の筋肉に遠心力がかかります。肩甲骨周囲の筋肉が伸ばされながら収縮することですが、筋肉に微少な損傷を引き起こすとされています。これらの微少な損傷が繰り返されることにより、肩甲骨周囲の筋肉を中心に過緊張や機能障害が生じることになるのです。

この機能障害を防ぐには、日常の練習でのウォーミングアップやクーリングダウン、練習以外での筋力強化や柔軟性を良くするストレッチ、投げすぎなどのオーバーユース防止、正しいフォ-ムの指導などが重要になってきます。しかしほとんどの指導者は、機能障害の予防や投球制限をしていないようです。

 

 

関節が十分な機能を発揮するためには肩関節包,腱板,滑液包,三角筋などの軟部組織の協調運動が必要です.したがって肩関節包,腱板,滑液包,三角筋により構成される肩関節の滑走機構及び骨、靭帯、のいずれに障害が発生しても肩機能には障害が発生します.

 

 投球障害に対する治療

 オ-バ-ユ-ズの障害の場合まず局所の炎症を抑える治療を行います。来院時には肩の使い過ぎ、負荷によって炎症(はれや熱感)を起こします。痛みのでる動作は中止してもらい安静にしてもらいます。  

 炎症が強い場合は、投薬や注射を行うこともあります。

 局所の炎症コントロールと平行してリハビリテーションが必要です。投球障害の原因は肩甲帯や体幹、股関節の使い方がまちがっている場合がほとんどですので、正しい投球フォ-ムのリハビリなどをはかっていきます。投球障害肩の患者さんのほぼ100%に胴体、あるいは股関節など肩以外の問題が見られます。繰り返して練習をしたがためによく使う筋肉のみに特定の負荷がかかり筋肉が硬くなったり伸びにくくなったり木津がついたりします」。したがって治療は、肩だけでなく障害が隠れている身体各所の動きやバランスを取り戻すリハビリが必要になります。

 ほとんどの患者さんは適切な運動量の調節と運動療法で競技に復帰できます。

 

 

 大きな上方関節唇損傷がある場合など、どうしても手術が必要となることもありますが、そういうケースは投球障害肩全体の5%以下といわれています。

    中にはリハビリによって肩甲帯や股関節機能が改善したのにもかかわらず痛みが続く選手もいます。原因として、腱や靱帯、軟骨などの損傷が問題になっていることが考えられます。

 

 

 


 

肩関節上方関節唇損傷・上腕二頭筋腱損傷の原因と病態

 肩関節が十分な機能を発揮するためには肩関節包,腱板,滑液包,三角筋などの軟部組織がスム-ズに動くことが必要です。したがって肩関節包,腱板,滑液包,三角筋により構成される肩関節の滑走機構のいずれに障害が発生しても肩機能には障害が発生します.

肩関節唇は膝半月板と同じく,関節の動きをスムースに誘導する役割と,骨同士がぶつかる衝撃を和らげる働きをしていますが,度重なる外力(主に圧迫力)により,断裂します.

 

上腕二頭筋長頭腱炎

上腕二頭筋の長頭腱という腱が肩の前方を骨に沿って走行しています。

肩関節の下には骨の溝があり、上腕2頭筋腱はその間を通っています。そこを抜けると約90度向きを変えて肩甲骨の関節面に向かいます。そのため、骨との間に刺激が生じやすく、炎症を起こすとされています。症状は肩の運動時痛で、主には前方に痛みが生じますが、腱板損傷やSLAP損傷でも同様の症状を来すことがあり、鑑別が必要です。結節間溝に圧痛があることが多いです。手術治療が必要になることは余りありません。一方関節唇の前方を通る上腕二頭筋長頭腱は二頭筋収縮時に牽引力が加わり,さらに上腕骨頭で角度を変えるため,溝(上腕骨二頭筋腱溝)で擦り切れていきます.
 肩関節上方関節唇損傷・上腕二頭筋腱損傷の診断と治療

 投球フォームや各投球フェーズでの痛みをチェックすることにより,損傷部位を推定し,MRI検査で診断します.

 

ベネット骨棘

投球による肩の障害の一つとして、肩甲骨関節窩の下方後方よりの部分に骨棘と言って骨の出っ張りが出来る事があります。これをベネット骨棘といいます。野球選手の多くに見られ、無症状の事もあるとされます。主に投球時の肩後方の傷みとして症状が出ます。局所に注射する事で改善する事が多いですが、手術的に切除するという人もいます。

 

腱板断裂

腱板とは肩の深部にあり骨頭を覆いかぶさっている腱のような組織のことをさします。この組織が断裂することを腱板断裂(損傷)といいます。損傷の原因としては、肩を強打することなどによる外傷によるものや、加齢変化(変性)によるものに分けられます。

この腱板が損傷することにより、様々な症状(痛み・筋力低下・可動域制限など)が生じる場合があります。ただ腱板が損傷しているからといって痛みなどの症状が必ずしも出るわけではありません。「無症候性腱板断裂」といって、腱板が切れているにも関わらず全く自覚症状のない人が60才以上では約4割に達するというデータもあります。

近年はエコーの発達により、MRIなどを必ずしも撮影しなくても腱板断裂の有無が分かるようになりつつあります。

 

治療に関して

残念ながら一度完全断裂に至った腱板は、自ら勝手に修復されることはありません。
しかし断裂があっても疼痛や機能障害がない場合は通常外科的治療の対象とはなりません。また肩に疼痛や機能障害があり、MRIなどの画像診断で腱板断裂を認めたとしても必ずしも手術適応とはなりません。腱板断裂以外が原因で痛みなどが生じている可能性があるからです。

一つの症状にはいくつもの原因が関与している場合があります。

野球などの投球動作を行うスポーツの他、バレーのアタック、テニスのサーブや水泳でも見られることがあります。症状は主に挙上時の痛みです。

断裂を起こしてしまった場合、手術治療が必要な事がありますが、スポーツ選手に対する手術成績は決していいものではありません。予防が大切です。


 

完全断裂の状態

関節鏡で肩関節を除いた状態です。上側の白い組織が断裂した腱板の端です

下の穴が開いた部分が断裂した部分となります。

 

インピンジメント症候群

腱板は上腕骨頭と肩峰という肩甲骨の突起部の間に存在し、肩の挙上時に腱板は肩峰の下面を滑るように動きます。

肩を上にあげようとすると上の肩峰と下の上腕骨の骨頭の間で腱板が挟まれるために擦れることによって腱板が傷つき、浮腫、炎症、部分断裂、完全断裂というふうに段階的に病状が進行していきます。 現在ではインピンジメントは原因ではなく、結果であるとする見方が主流です。主には慢性疲労や筋力のアンバランスのためにインピンジメントが生じると考えられています。

 

Cuff-Y Exercise

腱板の筋機能を再教育・改善することを目的に肩関節疾患において一般的な訓練となっています.

徒手やチューブを用いて外線方向にあまり強くない抵抗を与えて、もしくは無抵抗にて動かします。また肩甲骨と同じ向きに外にあげる運動を行い腱板の筋活動を向上させます。

強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋(Outer muscle)に力が入ってしまい,軽い抵抗に反応する腱板(Inner muscle)の働きを阻害してしまうので十分注意する必要があります

 

関節唇損傷

関節唇とは、関節窩の周りに関節面の縁取りをしているような形の軟骨の一種です。骨頭が脱臼するのを防ぐ、車止めの役割を持っていると言われています。繰り返しの投球動作で関節に無理な力がかかり、関節がずれようとします。この繰り返しによって、関節にゆるみが生じ、関節唇に負担がかかり、傷んできます。ですから、これは原因ではなく、結果であるという見方もあります。亜脱臼などの外傷で生じることもあります。治療は手術的に関節唇を修復する事もありますが、結果である事もあるので、肩関節のストレッチや筋力訓練(inner muscleと呼ばれる、腱板筋群の強化、バランシング)など、不安定性を来す原因を解明し、それを取り除く事が重要です。主に投球動作による障害です。

腱板炎・腱板断裂

インピンジメント症候群として話題になった事があります(下記参照)。これも肩関節の安定性が悪いために起こる、二次的なものであろうという見方が主流です。関節唇損傷と同様、腱板筋群の強化とバランシングが重要です。一旦部分断裂以上の損傷を来した腱板は自然には修復されません。そうなるまでの時期にしっかりと原因を除去し、治療することが大切です。

亜脱臼障害

脱臼の項目でも述べたように、亜脱臼とは脱臼に至らないが、関節の適合がなくなった状態です。肩関節の場合、元々骨の適合が少ないために、亜脱臼状態ではすぐに整復される事があります。自分で動かしているうちに整復される事もあれば、脱臼感を感じる暇もなく自然に整復される事もあります。前者は反復性肩関節脱臼の人に時々見られる状態です。また、後方亜脱臼と言って、腕を前に挙げたまま、内側にねじるようにする(屈曲内旋)と後方に脱臼するというものがあります。これも姿勢を戻せばすぐに整復されます。脱臼感を感じる暇もなく自然整復されると、自覚的には捻挫のような状態なのに、ひどく肩が痛んで腕が上げられない、麻痺したようになると言うような症状が出る事があります。これを”dead arm syndrome(デッドアーム症候群)”と言います。このような状態になると、関節唇損傷などが起こっている事があり、痛みが続くなら精密検査が必要です。

  • デッドアーム症候群(Dead arm syndrome)
  • これは肩関節が脱臼しそうになったとき(亜脱臼)によく起こるもので、典型的にはダイビングキャッチや「肩をもって行かれた」と言うような動作の後、痛みやだるさのため、肩がうまく挙上出来なくなってしまう状態のことです。まるで腕が一本麻痺したかのような状態になるため、このような名前が付けられています。
    脱臼ほどの痛みはなく、様子を見られることが多いのですが、通常、2,3日もあれば肩の動きは正常に近くなってきます。しかし、投球などの負荷がかかると痛みが生じ、スポーツ活動に制限を来します。
    病態は亜脱臼なので、関節唇損傷を伴っていることも多く、精密検査や場合によっては関節鏡が必要になることもあります。
    2006年12月、全日本フィギュアで安藤美姫選手が肩を傷めておりましたが、あれがまさしくデッドアーム症候群であると考えられます。もともと求心力の崩れている肩関節にスピンでの遠心力がかかったために亜脱臼を生じたものと思われます。

SLAP(スラップ)損傷(上方関節唇・二頭筋長頭腱障害)

これは比較的新しい概念で、1990年代に有名になったものです。関節鏡が普及して初めて確認された概念です。専門的にはSLAPの語源は「Superior Lablum lesion Anterior and Posterior」の頭文字をとってつけてあります。訳すると、「前方から後方にかけての上方関節唇損傷}と言う意味です。
上腕二頭筋長頭腱という腱が関節内を走行しており、肩甲骨関節窩の上部の関節唇と付着しています。この部分が投球などのストレスによって引っ張られ、関節唇とともに骨からはがれてしまう病態です。肩の痛みやクリックが生じます。診断は各種誘発テストやMRIなどの画像検査も提唱されていますが、正確な診断は困難なことが多く、関節鏡による確認が必要になることがあります。治療は原則的に関節鏡で行います。切除や修復など、傷み方によって治療方針は変わってきます。