肩関節脱臼

 

疾患の概念

肩関節は一般的に、上腕骨の近位部にある丸い上腕骨頭と、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩〈かんせつか〉とからなる肩甲上腕関節を指します。人間の身体で最も関節可動域が大きいという構造的特徴をもつため、関節周囲は靱帯や筋肉で補強されています。しかし、その補強が十分でないことから関節の安定性は低く、スポーツなどによって強い外力が加わると脱臼しやすい特徴があります。


受傷原因

受傷はラグビー、アメリカンフットボール、柔道、ハンドボールなどのコンタクトスポーツや、スキーやスノーボードによる転倒で多く発生します。
肩関節を挙上した状態(手を上げた状態)で後方に力が加わった場合や、後ろから手を引っ張られたり、後方に手をついて転倒したりした場合に、不安定な状態となった上腕骨頭が関節面を滑って脱臼します。脱臼型の多くは、上腕骨頭が身体の前面に移動する前方脱臼です
初回の受傷は後方への強い外力によって発生しますが、2回目以降は関節のストッパー構造(骨、靱帯、関節包)の摩耗により、初回よりも弱い外力で脱臼を起こすよ 脱臼のリハビリ方法は?

脱臼のリハビリ方法といっても、脱臼の種類によってそれぞれ異なる方法があります。

脱臼の種類というのは、脱臼した関節の場所によって決まります。

具体的には、肩の脱臼、肘の脱臼、膝の脱臼、指の脱臼、股関節の脱臼など様々な種類の脱臼があります。

ただし、関節として可動域が広いため外れやすい肩の脱臼が、一般的には最も多くの方がなります。

そこで、ここでは肩の脱臼のリハビリ方法を、ご紹介しましょう。

 


症状

急激に発生する疼痛、腫張、変形、運動制限(ばね様固定)、合併障害として血行障害や神経麻痺〈まひ〉(肩や指のしびれ)がみられることもあります。
レントゲンは最も有用な検査で、脱臼や骨折を確認することができます。関節包や靱帯の損傷には、関節造影やストレス撮影が有用で、最近ではCTやMRI検査(写真2)によって、骨軟部組織の損傷程度を把握しやすくなりました。
また、関節の安定性に重要であるバンカート部位(Bankart:肩甲骨関節窩下縁前方、写真3)と、ヒル・サックス部位(Hill-Sachs:上腕骨骨頭後外上部)の損傷確認も必要です。

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治療

治療は保存療法と手術療法とに大別されます。初回受傷時では一般的に、上腕を下垂し、肩関節内旋位の状態で三角巾などを用いたデゾー固定(Desault:写真4)を3~4週間行い、局所の修復と安定性を図ることで保存療法を実施します。再脱臼時でも約3週間の固定を要します。初回時に十分な固定期間と適切なリハビリテーションを行うことにより、再脱臼を予防し、反復化させないことが肝心です。
一般的に手術は脱臼が反復化した場合に行われ、競技復帰には術後約6ヵ月を要します。

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予後

30歳以下の再脱臼率は、約30%と高率です。


リハビリテーショントレーニング

受傷後は損傷部位に影響のない範囲で、手指の運動から始めます。受傷後1週間が経過したら、肩関節の内転・内旋位でのアイソメトリック訓練を開始し、3週間が経過したら、肩関節の90度挙上範囲内で軽い運動を行います。脱臼後のリハビリテーションのポイントは、壁や床を背にし、手が身体の前に位置する範囲内での上肢のトレーニングを行うことです。受傷動作となった肩関節前方挙上外転・外旋を伴う運動は、リハビリの最終段階(約6週間)まで禁止します。

リハビリ

いくつか自分でもできるリハビリの方法についてご紹介します。医師の指示に従って、無理のない範囲で行うようにしてください。

 

■ペットボトルを利用する

水を入れたペットボトルを持ち、肩の高さまで持ち上げる・おろすを繰り返します。腕の筋肉をつけ、肩関節を支える力を強くする効果があります。反動をつけて行うと再度、受傷してしまう可能性があるため注意が必要です。ペットボトルの重さは、少し重いな、と思うくらいがちょうどよいでしょう。

 

■ゴムバンドを利用する

リハビリ用のゴムバンドを利用してリハビリをします。脇の下は離さないよう肘を90度に保ち、ゴムを伸ばしたり縮めたりします。肩周囲の筋肉を鍛える効果があり、脱臼しにくくします。

 


代表例:25歳男性、オリンピック代表選手

カヌーの国際大会の試合中に転没。オールに引っ張られて右肩関節前方脱臼を受傷した。数時間後に整復固定をして後日帰国したが、右手の第4・5指を中心とした知覚と運動の麻痺を伴った、腕神経叢〈そう〉麻痺を合併していた。
初回脱臼だったので、スリングによるデゾー固定を3週間行い、その後3週間は90度挙上範囲内での軽い運動や、プールでのトレーニングを行った。6週より壁を背にした状態でのオーバーヘッドスロー動作を含めた可動域訓練を開始、12週より競技復帰した

 

肩関節脱臼は何度も繰り返してしまう可能性があります。スポーツをする前の準備運動はもちろん、日常生活にも十分注意する必要があります。それでも再発してしまう場合には、以下のような治療を行います。

アスレティックリハビリテーション

肩関節脱臼(肩関節不安定症)のアスレティックリハビリテーションの目的は、関節可動域や筋力を獲得したあとに、関節の安定を獲得することにあります。関節を安定させる機能として、静的安定性を担う靱帯と動的安定性を担う筋肉とがあります。アスレティックリハビリテーションにおいては、動的安定性を高めることが重要となるため、単に筋力のみの向上だけではなく、固有受容器のトレーニングによって神経-筋協調性の向上が必要となります。
今回は、不安定板やバランスボールを利用した神経-筋協調性を向上させるプログラムを紹介します。その際、段階的に負荷をかけていくことがポイントとなります。


固有受容器のトレーニング

固有受容器とは、関節包、靱帯、筋、腱、皮膚などに存在し、外からの刺激(触圧覚、痛覚、温覚など)や身体内部の状態(筋腱の長さ、関節の位置など)をキャッチするセンサーの役目を担っています。固有受容器はそれらの情報を中枢(脳)へ伝達し、中枢はその情報をもとに筋肉へ命令を出し、命令を受けた筋は反射的に運動します。
このような固有受容器→中枢神経→筋の反射機構(神経-筋協調性)の働きは、姿勢のコントロールや身体の保護(外傷の回避)、関節の安定などに深く関係しています。よって、靱帯や関節包を損傷して固有受容器に障害を起こすと、神経-筋協調性が低下し、スポーツ活動で生じる不意の外力に対して身体を守る瞬時の反応ができなくなります。
以上のことから、固有受容器のトレーニングはアスレティックリハビリテーションのみならず、傷害予防という意味で日常から行うようにすると効果的です。


トレーニングの注意点

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各エクササイズを3分間、3~5セット行います。トレーナーは外力を与える役目もありますが、選手(患者・以下省略)がバランスを崩して転倒しないように気をつける役目もあります。腕の位置はゼロポジションで、トレーニング時は肩甲骨が動かないように固定します(写真5)。トレーニングの段階は、選手の自覚(不安感など)や身体制動の達成度から判断します。

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手術

脱臼を整復すれば、ひとまず生活を送ることは出来ます。しかし前述したように肩関節は脱臼しやすい部分です。何度も脱臼をする場合は、はがれてしまった腱などをつなぎなおす手術をして根本的な治療をします。手術をしてもすぐに動かせるわけではなく、数週間固定をして肩の安静をはかります。また手術後も腕を後ろにつくような動作はしないように注意します。

 

 

術後10ヶ月~ スポーツ完全復帰

表は大まかな目安です。スポーツ競技によって復帰時期が異なります。
詳細は担当医師の指示に従ってください。

セルフエクササイズ・エクササイズ紹介

メディカルリハビリ初期(術翌日~3週)

メディカルリハビリ中期(術後3週~3ヶ月)

※この時期のセルフエクササイズは医師・セラピストの指示により実施してください。

メディカルリハビリ後期(術後3ヶ月~5ヶ月)

※この時期のセルフエクササイズは医師・セラピストの指示により実施してください。

アスレティックリハビリ期(術後5ヶ月~)

スポーツ競技に合わせたトレーニングを実施します。

何故そのようになったかというと、しっかり「リハビリ」を行ったからです。

 

毎日たった5分~10分リハビリするだけで劇的に肩を動かせるようになりました。

リハビリを繰り返すことで再び脱臼する事をかなりの確率で防ぐことができるように


チューブを使ったトレーニング

それでは私が実際に作業療法士に教わったリハビリ方法を説明していきます。

まず私は病院であるモノを渡されました。

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良く伸び縮みするリハビリ用のゴム製のチューブです。

コレを使ってリハビリしていきましたので、もし持っていない方は病院でもらうかAmazonなどで「リハビリ ゴム」と検索すると購入できます。

⇒Amazonでリハビリ用ゴ

スポーツ用品店でも販売されていますので準備をお願いします。

トレーニングの手順としては、肩幅と同じくらいの長さのチューブを持って脇を締め外側にゆっくりゴムを伸ばして戻す反復運動を20回繰り返します。

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ポイントは肩を動かさず肘から下だけを動かしてゴムを引っ張ること。

ゴムは少し力を入れないと伸縮しない位の強さでやりましょう。

 

次に、柱にゴムを結び付けて、脱臼した肩の方でチューブを持ち同じく脇を締めて、今度は内側に20回ゆっくり引っ張ります。

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この時も肘から上は脇にしっかりつけて肘から下の部分でチューブを引っ張ります。

このようにゴムチューブを使ってトレーニングする目的は「インナーマッスル」を鍛えるためです。

 

インナーマッスルとは骨や関節を覆う内部の筋肉であり、ココを強化する事でがっちり肩を支えて外れにくくなります。

よってインナーマッスルを鍛えているという意識を持って取り組んで下さい。

最初のうちは10回もすると、ジワーっと地味にキツくなってきます。

普段の筋トレとは違った感覚で、動かすのがしんどくなりますが、ここで頑張って20回やりましょう!

 

キツイとつい肩も動かしてしまいがちになります。

しかし、それだとインナーマッスルを鍛える事になりませんので、「キツイのは鍛えられてるからだ。」と思って取組みましょう。

 

でも、実はインナーマッスルを強化するだけでは不十分なんです。

それとあわせて行うとさらに効果的なリハビリ方法を次に説明します
肩のストレッチ

今度は肩の可動域を広げる為のストレッチ方法をお伝えします。

まず最初に、肩幅くらいの棒を用意してください。

なければゴムチューブでも構いません。

それを握ってゆっくり頭の上まで腕を上げていきます。

腕が上がる限界まで上げてそこで10秒間その体勢を保ちます。

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脱臼したばかりの頃は筋肉が硬縮しているので、腕がブルブル震えて、痛みもあると思いますがそこからが勝負です。

上げれる所まで上げ、グッとこらえて10秒間キープします。

そしてゆっくり腕を下します。

私は大きく深呼吸し、呼吸を整えてから行っていました。

すると緊張がほぐれ腕の筋肉も自然に上がりやすくなる感覚が得られます。

 

次におすすめの方法は

壁の柱の前に立ち、頭の後ろで手を組んで肘を柱に当てて10秒間前方にグッと体重をかけるやり方です。

前に進もうとすると、支点になっている肩に力がかかりますので、可動域を広める為に効果的なストレッチです。

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ゆっくりジワジワと体重をかけてやりましょう。

急にやると肩を痛めて最悪の場合外れる恐れがあるので、必ずゆっくりやるように。

 

以上の二点がストレッチとして私が実践していたやり方ですが、
目的としては「肩の周りの筋肉をほぐし、可動域を広げる。」事にあります。

そうする事で、硬く縮んだ周りの筋肉を日常生活に支障が出ないくらいにまで柔らかくして、肩を動かせるようになります。

脱臼したての期間は完全に固定するので、その後は腕が肩までしか上がらず、信じられないくらいにガチガチになっています。

 正直、最初はやはり痛くて辛いです…

私も何回も10秒耐えれずにやめようと思いました。

「外れそう」とヒヤヒヤしたこともありました。

◆保存療法の場合
受傷後 三角巾とバストバンドにて肩関節を固定(3週間前後)
初回脱臼の時、外旋位固定する場合もあります。
∗安静にして傷めた筋肉や靭帯の修復に努めますので、肩・腕は基本的に使わないようにします。
  
受傷後4週目 固定を外し、リハビリテーションを開始。
セラピストによる肩関節可動域訓練(肩関節の動かす範囲を拡げる訓練)
肩甲骨周囲筋や腱板の筋力強化訓練
∗求心位を保つことを意識しながら進めていきます。
∗肩関節以外の肩甲骨の動き、体幹や下半身の柔軟性や筋力をチェックし必要に応じて同時に治療、トレーニングしていきます。
  
受傷後12週目 各競技にあわせての関節可動域訓練や筋力強化訓練
∗徐々に日常生活や仕事、スポーツ競技での制限をなくしていく。
∗トレーナーと共に全身的にトレーニングを進めていき、復帰を目指します。
  

保存療法にて痛みや不安定感の改善がみられない場合や、これまでに脱臼を繰り返して反復性肩関節脱臼になっている場合は、手術療法の適応となります。

例として反復性肩関節前方脱臼に対して行われる鏡視下Bankart(バンカート)修復術があります。

■ 治療直後の肩の脱臼のリハビリ方法は?

脱臼になり、治療した直後というのは肩の関節を、ほとんど自分の力では動かせない状態になることもあります。

そこで、そのような場合のリハビリ方法を2つご紹介します。

【リハビリ方法~その①~】

脱臼した腕の肘を、もう一方の手で下から支えます。

次に、支えた手をゆっくりと上げて、脱臼した腕をゆっくりと徐々に持ち上げてあげます。

さらに、腕を持ち上げて垂直にまっすぐ上に伸びた状態にします。

ここから、垂直状態からさらに背中の方へ少し行くくらい押し上げて、その状態で10秒止めておきます。

最後に、ゆっくりと支えながら脱臼した腕を下ろしていきます。

この動作を10回繰り返すリハビリを、毎日朝昼晩と3回しましょう。

【リハビリ方法~その②~】

足は肩幅に広げて、真っ直ぐ立ちます。

次に、膝を少し曲げて、腕の力を抜いてダランとした状態にします。

その状態で、両肩を左右にゆっくりと動かします。

そうすると、力を抜いた腕は、肩の左右の運動と連動して、ブラブラと揺れて、手が腰の周りに沿って動き、自然と肩の関節が無理のない形で動きます。

この肩を左右に動かす運動を、30回繰り返す動作をリハビリを、毎日朝晩2回しましょう。

以上、ここで紹介した2つのリハビリ方法は、いずれも固まったしまった肩の関節を柔らかくすることを目的としたリハビリとなっています。

治療後の直後は筋力も落ちており、関節も固まっているため、肩関節を自力で動かすことは難しいため、このようなリハビリが効果的となります。

■ 治療から1ヶ月以上経った際の方の脱臼のリハビリ方法は?

それでは、次に、治療から1ヶ月以上経った際に行う肩の脱臼のリハビリ方法をご紹介します。

先ほどの治療直後のリハビリとは、何が違うのでしょうか。

ずばり、リハビリの目的が異なります。

具体的には、治療直後のリハビリは固まってしまっていた肩の関節をほぐすことが目的ですが、治療から1ヶ月以上経った際に行うリハビリの目的は、衰えてしまった肩の関節周辺の筋力を取り戻すことなのです。

ですので、今度は何かの補助を使うことなく、自ら肩の筋肉をつかった動作をすることになります。

これには、体力も使いますし、痛みも伴いますので、医師の指導にしたがって、無理のないように取り組むよう気をつけて下さい。。

ここでは、続いて2つのリハビリ方法をご紹介しましょう。

【リハビリ方法~その③~】

脱臼した腕を、もう一方の手で支えることなく、自力でゆっくり前に上げていきます。

前にあがって地面と水平になった状態で、一呼吸します。

次に、そのまま腕を頭の上まで垂直になるように上げていきます。

最後に、上がった腕の力を抜いて、ダランと下まで下げます。

この動作を10回繰り返すリハビリを、毎日お昼と夜の2回しましょう。

【リハビリ方法~その④~】

椅子に座った状態で、机の上に、脱臼した方の腕の手を置きます。

そのまま少しずぐ、イスを後ろに引いていきます。

この時、机の上の手の平はしっかりと貼り付けて動かないようにします。

さらに、イスを後ろに引いて、肩の筋肉が引っ張られるくらいの状態まで上げます。

最後に、肩の筋肉に負荷のかかった体勢で、30秒間深呼吸をして止めておきます。

その後、イスを机の方に近づけていって、元の状態に戻ります。

この動作を5回繰り返すリハビリを、毎日お風呂上りに1回しましょう。

以上、治療から1ヵ月以上経った後に行う肩の脱臼のリハビリ方法でしたうになります。この傾向は回を重ねるごとに顕著になり、比較的軽微な外力でも再脱臼(反復性)しやすくなります。